周りへの感謝を胸に
新しい表現を追求
お互いの印象について
聞かせてください。
竹内 真央ちゃんの姿は、国際大会で活躍していたころから、すごいアスリートだなと思って見ていました。2014年のソチ五輪で見せた真央ちゃんのフリーの完璧な演技にあまりに感動して、『静かな伝説(レジェンド)』という曲を書きました。実際に昨年11月にお会いすることができて、まさにイメージ通りの魅力的な方だな、と思いました。
浅田 それまでも竹内さんの曲はたくさん聞いたことがありましたが、『静かな伝説』は、私をイメージして作ってくださったと聞いて光栄に感じました。正直に言いますと、オリンピックでは、悔しい思いをしたこともありました。でも、この曲を聞いていると心が温まってきました。こういう形で応援していただいて、本当にうれしく思います。竹内さんの曲はどれも素晴らしいのですが、『静かな伝説』はその中でも大好きな曲です。竹内さんご本人は、曲のイメージから温かくてカラフルな感じの方かな、と思っていましたが、実際に会うととてもシックでクールな面も感じました。
竹内 初めてお会いしたときにすぐに打ち解けて、全く初めてのような気がしませんでしたね。その後、今年になってから真央ちゃんのアイスショー『Everlasting33』を見に行きました。国際大会での一流アスリートの姿からさらに進化して、表現者そのものだな、と思いました。スケートだけでなく、空中演技あり、ミュージカルあり、タップダンスまで披露する真央ちゃんは、プロのスケーターというだけでなく、演技者であり、監督であり、ショーをまとめるリーダーと、すべての役割を軽やかにこなしていました。音楽や演出もすばらしくて、アイスショーという概念をはるかに凌駕する一大エンターテインメントで、心から感動しました。
浅田 今回のアイスショー『Everlasting33』は、『サンクスツアー』(2018~2021年、全202公演)、『BEYOND』(2022~2023年、全103公演)に続いて3作目になります。初めの2作は過去の大会などでの演技で滑った曲を使いましたが、今回はすべて初めての曲で、エアリアル(空中演技)やダンスにも挑戦しました。今回は過去2作と違って、映画としても上映しました。観客席でショーを見るのとは違い、映画ではさまざまな角度や距離からの映像があります。ショーを見たことがない人が楽しめるのはもちろん、ショーを見た人も映画ではまた違った面白さを発見できると思います。
日常のささやかな思い、
祈り積み重ねることの奇跡
エアウィーヴのCMに竹内さんが提供した新曲『Days of Love』は、竹内さん作詞、夫の山下達郎さん作曲ですね。
竹内 私の作詞で達郎の作曲した曲を私が歌うのは43年ぶりのことになります。今回は、先に達郎の曲ができていました。ちょうど牡牛座流星群が見られたころで、大切な人と一緒に星に願いをかけて眠りにつく、というイメージで詞を考えました。エアウィーヴについては、実は発売されて間もない2008年ごろ、達郎が、「いいのがあるよ」と見つけて、それからずっと我が家で使っています。コンサートツアーに出るときも必ず持っていきます。ですから今回、CMのお話をいただいたときに、これもご縁なのかな、と思いました。
浅田さん出演のCMと『Days of Love』のミュージックビデオはハワイ・カウアイ島で撮影されたそうですね。
浅田 ハワイは何度か訪れたことがありましたが、カウアイ島は初めて。ハワイの中でも一番自然が残っている島だそうです。海がきれいで緑が豊か。夢のあるロマンチックな時間がゆったりと流れています。こんな時間に浸れたらいいな、というイメージで撮影に臨みました。アイスショーのツアーが終わってすぐにハワイに行きました。『Days of Love』は、優しい感じがする曲で、それを聞きながらとてもリラックスして撮影することができました。
竹内 真央ちゃんには、ミュージックビデオに初めて出ていただきましたが、自然の中で本当にリラックスした感じが表情からあふれていて、見ている方にもそれが伝わってくる、とても素敵な映像になりましたね。
お忙しいお二人ですが、健康維持で最も気をつけていることは何でしょうか?
浅田 トレーニングを続けることはもちろん大事ですが、それと同じように大切にしているのが睡眠です。
竹内 私も、健康の基本は睡眠です。体調とメンタルを整えるのには良い睡眠をとることが一番ですから。
人生も愛もかけがえのない
日々への願い
『Days of Love』を含む竹内さんの10年ぶりのオリジナル・アルバム『Precious Days』も10月23日に発売されます。
竹内 前のアルバムから10年。毎日の暮らしの中で少しずつ書きためて、曲がそろったらたまたま10年が過ぎていました。この間にコロナ禍を体験したためか、当たり前の日常がすごく尊い、ということをテーマとした曲が多くなりました。『Days of Love』も、日常のささやかな幸せが本当は奇跡的なことで、そういう日が1日でも長く続くように、と願う気持ちを歌っています。真央ちゃんのショーのタイトルが『Everlasting』、永遠に続くという意味ですが、私も『Precious Days』、かけがえのない日々がずっと続いてほしい、という思いを込めました。アルバムに入れた曲は、ドラマや映画のテーマソングもそうですが、元気にして癒す、というテーマが多かったように思います。そういう時代なのかもしれませんね。
竹内さんは、ひさびさのコンサートツアーも予定していると聞きました。
竹内 来年の春に11年ぶりのツアーを行います。実は2021年に予定していたのですが、コロナ禍で全公演中止になってしまいました。コンサートは、待っていてくれるファンの皆さんとお会いできて、直接お礼を言える場所として、とても大切にしています。目の前のお客さんからエネルギーをいただけるありがたい機会です。今回は真央ちゃんのショーからも大いに刺激を受けていて、良い公演にしたいと思っています。
浅田 私もショーのときなど、観客の方から直接声援をいただくことは、とても励みになりますし、さらに力がわいてくる気もします。
浅田さんの名前を冠したスケートリンク『MAO RINK TACHIKAWA TACHIHI』が11月、東京都立川市にオープンします。
浅田 スケートリンクを作るのは、私の長年の夢でした。こんな場所があったらいいな、と思うものをすべて盛り込んだリンクになっています。私自身5歳からスケートを始め、たくさんの応援をいただきました。その恩返しとして、次の世代につなげていきたい。ここから世界で活躍できるスケーターが育ってほしいと思います。スケーターの名前がついたリンクは日本では初めてだと思います。日本全国から才能が集まり、笑顔あふれるリンクにしたい。そしてここから日本のフィギュアの未来を盛り上げていけるようになれたら、と思っています。
竹内 スケーターの方がアマチュアの世界大会から引退すると、解説者とか、タレントになられるとか、いろんな道がありますよね。真央ちゃんは、自分が経験したことを次の世代に伝え、フィギュア界全体を盛り上げようとしています。その利他の精神がとてもすばらしいなと思います。
浅田 一つ竹内さんにお伺いしたいことがあります。曲のアイデアはどこから生まれるのでしょうか。歌詞はどんな風に作ってらっしゃるのでしょうか。
竹内 私の場合は、日々普通の生活を営んでいる中で、曲が自然に生まれてくることが多い気がしています。ドラマや映画の主題歌などは、自ずとテーマがあるので、それに合わせた言葉を考えますが、メロディは、お風呂の中や、眠る寸前のちょっとした時間にひらめくことも多いです。そんなふうにして作った自分の音楽が、誰かの心を少しでも励ましたり癒したりできたら、と願いながら歌っているのですが、それをお仕事にできたことの幸運に感謝しています。真央ちゃんは、リンクを作ることでいわば新たに事業を始めるわけですね。そうしたいと思ったのはどういうきっかけなのでしょう。
浅田 私の場合、人との出会いがとても大きかったと思います。リンクは自分だけでは作ることはできません。10代のころからいろんなサポートがあり、ご縁があって、作ることができたと思っています。私がやらなくては、ということでなく、以前から私を応援してくださった方たちのためにがんばりたい、という気持ちです。
竹内 世界には真央ちゃんにあこがれてスケートを始めた子たちがたくさんいると思います。日本だけでなく、世界の才能がMAO RINK TACHIKAWA TACHIHIに集まるようになるのではないでしょうか。真央ちゃんとこうして知り合えたことは、本当にうれしい出会いでした。これからの真央ちゃんが、どんな風に進化していくのか、とても楽しみにしています。