COLUMN

「減点要因」をクリアして良い睡眠へ

良い睡眠をとるためには、
どうすれば良いのでしょうか?
その答えは、人によって異なります。

なぜなら睡眠には、
寝室やリビングの環境や、毎日の行動習慣、
精神状態や、場合によっては睡眠障害など、
様々なことが影響するからです。

しかし、ちょっとしたコツをつかめば、
自分の睡眠は自分自身で
改善していくことができます。

そこでこの記事では、
より良い睡眠をとるための考え方と
具体的なアクションを整理していきます。

睡眠の
「減点要因」を考える

睡眠をよくするために、誰にでも有効な方法はほとんどありません。

睡眠は原則として、「減点法」だと心得ましょう。
つまり、睡眠に良くないことをするほど、睡眠が悪くなっていく(減点される)ということです。

逆に考えれば、自分の睡眠の減点要因が分かれば、それを排除することによって良い睡眠に近づけることができるのです。

では、具体的な減点要因にはどのようなものがあるのか、整理していきましょう。

寝室は暗く、静かで、朝まで適温で

まず寝室環境は、光、音、空気(温度、湿度)の3つの観点でチェックしましょう。

眠るときは真っ暗にするのが理想です。遮光カーテンや雨戸などを使い、外からの光を遮断しましょう。

また、睡眠中は目を閉じて眠るので、音からの刺激に敏感になっています。人の話し声には特に敏感で、覚醒作用が働きます。

このほか外からの雑音を遮断することはもちろん、音楽を聞きながら眠るのも脳を刺激するので睡眠に悪影響です。もし音楽を聞いてリラックスしながら眠りたいなら、一定時間で音が消えるタイマーを使うなどの工夫をして、睡眠の妨げにならないように注意してください。

快適に眠れる温度を朝まで保つことも重要です。真夏や真冬など、エアコンが必要な季節は朝までつけっぱなしにすることをおすすめしています。

リビング・ダイニングの明るさにも注意

睡眠には、寝る前を過ごす空間の環境も大切です。

リビング・ダイニングの照明を、明るくしすぎないように工夫しましょう。

雰囲気のよいレストランのような、ぼんやりとした明るさをイメージしてみてください。暖色系の間接照明を使い、ムーディーな雰囲気にするのが理想です。

日本は諸外国に比べて明るいことが多いといわれているので、ご自宅のリビングの照明を見直してみてください。

就寝前の過ごし方を見直す

就寝前の1~2時間で、脳や体が覚醒してしまうような活動をしていないか、見直してみてください。

たとえば、集中して仕事をしたり、スマホのアプリに夢中になったり、あるいは激しい運動をしたり、明るい照明で過ごしたりすることは、睡眠の大きな「減点要因」になります。

そういった行動は極力控え、逆に、自分の中で「これをやったら眠る」という入眠前の習慣を見つけて置き換えることができればベストです。”パブロフの犬”のように、「これをやったら眠るんだ」という条件付けがなされ、スムーズな入眠の助けになるからです。

具体的にどんな習慣が良いかは、人それぞれです。ストレッチがいいという方もいれば、音楽やアロマがいいという方もいるでしょう。動画を見てリラックスすると眠くなる方もいますし、読書でもいいと思います。動画や読書の場合は、脳が興奮するものを避け、気持ちが落ち着いてくるようなものを選ぶのがおすすめです。

私は睡眠学者という仕事柄もあり、入眠習慣としてつまらない論文を読むことにしています。本当につまらない論文を読むとすぐに眠くなるので、ご興味がある方はお試しください。

完璧な睡眠を求め過ぎない

夜中に目が覚めてしまうことや、あまり深く眠れなかった感覚が残っていると、必要以上に「良くないこと」と考えてしまう方が少なくありません。

夜間の覚醒や熟眠感の低下は、健常な加齢現象として誰にでも起こり得ることです。また、睡眠を測ってみると、何度か目が覚めていても、その前後にとても良い睡眠がとれているケースも多いものです。

このような場合に、「私の睡眠は良くない」と思い詰めると、睡眠への満足感は下がり、日中の眠気や活力低下を招きやすくなります。睡眠への不安が広がり、本当に眠れなくなってしまうこともあり、睡眠への不安も大きな「減点要因」と言えるでしょう。

完璧な睡眠を求め過ぎず、「1~2回、目が覚めるくらいなら大丈夫」と、安心して楽な気持ちで眠ることが大切です。

睡眠障害には注意

夜中に目が覚めてもすぐに眠れるなら、基本的には心配ありません。ただし、睡眠障害、特に「睡眠時無呼吸症候群」の可能性には注意が必要です。睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に呼吸が止まったり弱くなったりする睡眠障害で、息苦しさから目が覚めることがあるためです。

睡眠時無呼吸による睡眠の悪化:良好な睡眠と、睡眠時無呼吸患者の睡眠の比較。良好な睡眠は深いノンレム睡眠(N3)やレム睡眠(REM)が持続的にとれているが、睡眠時無呼吸患者は血中酸素濃度が低下し(下段のオレンジのグラフ)、それに伴いごく短時間の覚醒(WK)や浅い睡眠(N1)を何度も繰り返すなど、睡眠が不安定になっている。

睡眠時無呼吸症候群は国内の患者数が中等症以上に限定しても900万人、軽症者まで含めると2200万人にのぼるという推定もあります。40歳以上であれば、3人に1人くらいの割合で罹患している可能性もあるのです。

また、自覚しにくい睡眠障害で、本人の自覚がないまま中等症以上まで進行しているケースも少なくありません。睡眠状態が大幅に悪化して翌日の眠気につながるほか、心筋梗塞や脳卒中などの心血管障害のリスクも高まります。

睡眠時無呼吸症候群と心血管障害の関係。重症の睡眠時無呼吸患者は高い確率で致命的な心血管障害を発症するが、重症の睡眠時無呼吸でも適切な治療によってリスクを大幅に下げることができる。

自分に合った寝具を選ぶ

睡眠時無呼吸症候群には医学的な検査や治療が重要ですが、軽症であれば、仰向け以外の姿勢で眠ることによって、症状を抑えられることがあります。舌根が落ちにくく、気道が塞がりにくくなるためです。

横向きで眠る時間を増やすために、枕の高さを変えたり、抱き枕を活用したりすることが考えられます。

また、自分に合った寝具を選ぶことで、睡眠時無呼吸に限らず、寝付きが良くなったり夜間の覚醒が減ったりすることも十分に考えられます。

どんな寝具が良いのかも、人によって異なるため一概には言えませんが、自分にあった寝具を選ぶようにしましょう。

減点要因にあった行動改善を

このように、睡眠の「減点要因」には様々なものがあります。

そして、良い睡眠をとるためには、それぞれの「減点要因」に応じた対策をとる必要があります。

まずは自分の「減点要因」に何が考えられるかを、振り返ってみてください。

必要に応じて、自分の睡眠状態を脳波計測等で客観的に調べてみると、問題やその要因がより明確になることもあります。

たとえば、自分が自覚しているよりもよく眠れていることに気付いたり、睡眠時無呼吸に気が付いたりすることもあるでしょう。

よい睡眠をとることは、日々の暮らしを充実させてQOL(Quality Of Life:生活の質)を高めていく上でとても大事なことです。

睡眠を大切にして、人生100年時代のウェルネスにつなげていきましょう。

PROFILE

柳沢正史睡眠学者

株式会社S'UIMIN 取締役会長

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)教授・機構長
テキサス大学サウスウェスタン医学センター客員教授

ベッドマットレス、敷き布団、
マットレスパッドなど
睡眠環境をトータルにご提案します。

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