
睡眠とメンタルヘルスの関係は?
心の健康には睡眠が必要?

「何をしてもうまくいかない、頑張っても頑張ってもまだ頑張り足りていない気がして焦る、真っ暗なトンネルの真ん中にいるように希望が見えない。」
こんな気持ちになったことはありませんか?
今回は、株式会社SEA Trinity代表で睡眠コンサルタントの友野なおさんに、睡眠とメンタルヘルスの関係について実体験を交えながら解説していただきます。
睡眠とメンタルヘルスの関係
皆さんは前述したような気持ちになったことはありますか?
私にはあります。20代の頃に重度のパニック障害を抱え、働くことさえできませんでした。
何をしても空回りで、広い海に放り出されて1人で溺れ続けているような感覚でした。当時の私は電車に乗ること、人と会話をすること、階段をのぼること、酷い時は家から一歩も出ることもできない状況で、寝る間も惜しんで「こんな自分でも働ける方法」をパソコンにしがみついて探し続けていました。
どうしたらこの病が緩和するのか、どうしたら「普通」の生活が戻るのか、どうしたら未来を生きられるのか。そんなことばかり考え、検索し続けるも、状況はどんどん悪化するばかりで絶望という言葉の意味を噛み締めた記憶があります。
この頃、私の母が「いいから1度ちゃんと寝なさい」と声をかけてくれたことがキッカケで、「夜に寝る」という至極当然の習慣に初めて取り組むのでした。
きちんと寝ることで睡眠の効果を感じることができ、約1年かけて徹底的に睡眠改善に取り組んでいきました。
その結果、人生を取り戻せたことが転機となり睡眠を科学的に学び、研究する道へと進みました。
その後色々と調べてみると、やはり睡眠は体の健康だけでなく、心の健康にも直結しているということが分かったのです。
例えば、徹夜明けはぐっすり眠れた日よりも交感神経の緊張が強くみられ、心理的ストレスを受けやすく、情動不安定になる傾向が高まることも指摘されています。
寝不足のときは普段なら受け流さるような些細なこともイラッとするという経験、きっと皆さんにもあるのではないでしょうか。
私も寝不足の状態だと、子供の言動に対して怒りがちになることは自覚しています(笑)。
メンタルヘルスに睡眠が重要な理由とは
人の脳の最前部には「前頭前野」という部分がありますが、この前頭前野は意思決定、コミュニケーション、思考、意欲、行動・感情抑制、注意の集中・分散、記憶コントロールなど、人間性の根幹に関わる働きを担っており、さらに「心の脳」とも呼ばれる情動を司る脳の部位である扁桃体の働きを抑制させる働きもあるのです。
しかし、睡眠不足だと前頭前野の働きが鈍くなってしまいます。従って扁桃体の働きも抑えられなくなってしまうため、冷静で理性的な思考が失われやすく、感情的になりやすくなってしまうのです。この前頭前野の働きの低下には自殺との関連性があることも指摘されています。
ノルウェーにて74,977人を対象に行った20年間の追跡調査では、ときどき睡眠に問題がある人の場合は自殺危険率が1.9倍、しばしば睡眠に問題がある人の場合は2.7倍、ほぼ毎晩睡眠に問題がある人の場合は4.3倍高くなるという結果が発表されました(1)。
このような結果からも、いかに日々十分な睡眠時間を確保することが重要か、ご理解いただけるかと思います。
心の健康には睡眠が大切
発熱したり、怪我をしたりすればすぐに適切な対処をしますよね。しかし、心の不調は目に見えません。目に見えないために対処が遅れるだけでなく、自分の弱さを責めたり、自分の未熟さに落ち込んだりする人もいるでしょう。
しかし、心の不調は「心が休みたい」とメッセージを送っているのであって、自分の努力やの能力が足りないというメッセージではありません。
心の不調を感じたら、思考、感情、記憶をしっかりと整理整頓するためにも、まずはゆっくり睡眠をとりましょう。
自分の家だと気分転換ができない場合は、快眠をコンセプトとしたホテルに1泊するという方法もおすすめです。心の健康維持の入口には睡眠があることを、ぜひ忘れないでくださいね。
この記事の監修者
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睡眠コンサルタント
友野なお -
株式会社SEA Trinity代表取締役
千葉大学大学院 医学薬学府 先進予防医学 医学博士課程 順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科 修士
日本公衆衛生学会、日本睡眠学会 正会員
産業心理カウンセラー

さらに詳しく
順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科 修士
日本公衆衛生学会、日本睡眠学会 正会員
産業心理カウンセラー
自身が睡眠を改善したことにより、15kg以上のダイエットと重度のパニック障害の克服に成功した経験から、睡眠に関心を持ち、順天堂大学
大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程にて睡眠を研究し、修士号を取得。
現在は先進予防医学医学博士課程にて、睡眠と健康に関する研究活動を行っている。
著書に「眠れないあなたを救う睡眠ファースト」(主婦の友社)など多数発売され、韓国・台湾・中国全土でも翻訳され発売されている。
眠れると話題の「ぐっすり眠れる不思議な塗り絵」(西東社)は9シリーズ発売されるほどの人気。